前回の挨拶に続いて何を書こうかと思ったのですが、最初に、風土のはなしと持続可能性をめぐる議論がどのような位置関係にあるのか、考えてみることにしました。2030年に向けて、SDGs(Sustainable Development Goals; 持続可能な開発目標)が推し進められています。そのような中で、来るべき未来社会の風土論にできることは何なのか。とりわけ、「研究概要」のページで紹介した、未来社会の風土論の方向を検討する中で見えてきた持続可能社会への鍵となる行為とはどのようなものなのでしょうか?

両者を媒介して結びつける視点は、「身体性」なのではないかというのが、当面の結論です。未来との接続を果たした私たちと今の社会は、私たち自身ともつながらなければなりません。だから「身体性」を回復する必要があるということです。それを、個人にとどめるのではなく、社会として模擬体験することで未来に備えるわけです。「研究概要」のページでも整理したように、可視化表現物が「もの」として現前することで、別の「もの」と影響し合います。その中の一つが私たちです。それを進めていくことで、環世界も人間の行為も変化していくわけです。

異なる環境や社会的・身体的条件の中で自分が何を考え、どう行動するのかを体験する、あるいは他者の視点と行動を体験するには、被害、生存、適応、緩和に即したシミュレーション技術のさらなる開発が必要です。「暮らしにシミュレーションを組み込む」ことを明確に打ち出す。「もし〜だったら」を体験する教育コンテンツの開発と普及が鍵になると考えています。

仮想現実(VR;Virtual Reality)、拡張現実(AR;Augmented Reality)、複合現実(MR;Mixed Reality)のさらなる発展と普及は、こういったコンテンツの開発を後押しするでしょう。未来社会の風土論からみると、物的世界と仮想世界が融合した「自然」からの働きかけがこういったコンテンツによって起こるということになります。こういった働きかけが、人間行動(他者との共同、個人行動)の変化を求める。このことが、未来社会の風土論と持続可能性の議論をつなぐ回路とそこで起こる動きのように思います。

熊澤輝一